報告 後藤 元(ルネサンス研究所・関西運営委員)
20世紀の社会主義の実験は、生産手段を国有化し、物やサービスの生産・分配を国家が上から統制しようという試みであったが、失敗に終わった。論理的には、その対極として構想しうるのが、全員参加の直接民主主義による下からの合意形成-75億人による全体意思の形成であるが、実践的には「不可能」であろう。
現実的に採りうる方策としては、合意形成可能な範囲での分散した生産単位により物やサービスを生産するほかはなく、その物やサービスが当該生産単位の個別の意思を超えて社会的な価値をも持ちうるのは、市場を通じた交換によるほかはない。つまり、市場は、そしてマネーは、今後も人類史の相当の期間無くせないのだ。
そうだとすると、問われるべき問題は、資本主義的市場と異なる市場はありうるのか、ありうるとするとその市場は資本主義的市場と何がどうちがうのか、である。
研究会では、グレーバーの『負債論』での議論を手掛かりに、マルクス『資本論』的市場観の相対化を試みる。他方、リベラル-コミュニタリアン論争を振り返ることで、改めてブルジョア政治学/経済学のリミットを見極めたい。それらの作業を通じて、21世紀に私たちが構想しうる市場の在り方についての方向性を探りたい。
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